- ゆっきー監督
ゆっきー監督のサブカルチャー談義6
今日の談義はそろそろいきましょうか。

ビートルズのサージェントペパーズロンリーハーツクラブバンドです。長いので以降はサージェントペパーで笑。
音楽史を語るにはとにもかくにもビートルズです。
ビートルズの歴史を語ると本当に終わらないので、今日はこのアルバムについて談義しましょう。
このアルバムは音楽史において「歴史的傑作」と呼ばれています。1967年にイギリスで販売されたビートルズ8枚目のアルバムです。
現在までに全世界で3200万枚以上売れているモンスターアルバムです。売上だけ見れば、ちょっとした国家予算に匹敵します。
ところが、実はこのサージェントペパーは、数字や歴史的観点では化け物ではあるのですが、僕も含めて、ビートルズマニア、さらにはビートルズ本人達までも、「楽曲」という観点ではあまり肯定的な姿勢を示してはいません。
率直に言えば
「言うほど良いアルバムか?」
ということです。後年ジョンレノンも「まあペパーは…悪くはないけど、そんなに良くもないよね」と発言しています。
ビートルズの全アルバムを聞くと、このアルバムより優れたアルバムはたくさんある、というのが、大方の意見です。
ではなぜサージェントペパーが歴史的傑作と呼ばれているのか?
それはこの二点につきます。
まずは世界初コンセプトアルバムだった、ということ。
CDが全盛だった一時代前、日本でもそうですが、シングルとアルバムは、音楽的に含まれている意味合いが大きく違っていました。
シングルはもちろん名刺です。
アルバムは12曲ほどで成立する「一枚の絵画」のようなものでした。シングルを羅列するのではなく、曲順から歌詞まで、全て複合的に機能しているもの、それがアルバムという概念でした。
ネット社会になってこれもすでに廃れた意味合いではありますが。
つまり数曲集まって初めて成立する「一枚の絵画」を世界で初めて作ったのが、このサージェントペパーです。
厳密にいうと初めてではないのですが、世間一般に認知されているという意味では世界初、という位置づけになっています。
それまでのアルバムと呼ばれるものは(レコード)、まさにシングル的楽曲を適当に羅列したものばかりで、例えばアルバムのタイトルも「ウィズザビートルズ」や「ビートルズフォーセール」など、特に意味がないものばかりでした。さらにアメリカ版、イギリス版、などで選曲が違うという、無茶苦茶な販売の仕方をしていました。多分本人達もアメリカ版のアルバムに何が入っているか、など知らなかったでしょう。
レコードだったのでA面、B面と裏返して聞く必要もあり、曲順もずさんなアルバムばかりだった時代です。
そういった背景を全て飲み込んで「一枚の絵画」というコンセプトのもと、このアルバムは作られました。
サージェントペパーの歴史的価値の一つは、それまでのアルバム制作を覆した、ということですね。
…
とはいっても、そのコンセプトも実は数曲止まりではあるのですが…。最初と最後くらいですかね笑。
個人的にこのコンセプト論は世間一般ほどあまりピンときていません笑。
でも二つ目の理由は違います。こちらはとにかくすごい話です。
このアルバムは「4トラック」で制作されたのです。
4トラックといってもピンとこない方がいるでしょう。
簡単に言えば、音を四つしか入れられない、ということです。メインボーカルで1、ギター、ベース、ドラムで3。これで4トラック終了です。
コーラスも、リズムギターもピアノももう無理です。チャンネルがありません。ドラムは頭の上につるした一本のマイクで終了。
今では考えられない状況です。ちなみに現代だと、ドラムだけで10トラックくらい使っています。ハイハット、スネア、バスドラ、タムに二本、フロア、シンバル、ライド、トップ二本、などこれが全てトラック数になります。
ライン録音(外部音ではなく録音機に直接音を流すベースやキーボードなど)プラス、マイクで集音する数、イコール、トラック数です。
サージェントペパーの時代は4トラックが限界でした。ビートルズは四人です。単純に一人1トラック使ったら終了ですよね。
にも関わらずサージェントペパーには、コーラスもピアノもたくさん入ってます。現代音楽と聴き比べてみても、音圧はもちろん違いますが、トラック数にはさほど違いが感じられないでしょう。(よく聞けば分かりますが)
サージェントペパーの歴史的傑作たる最たるゆえんはこのレコーディング技術です。
からくりは、今となっては案外簡単です。ピンポン録音と呼ばれている手法をビートルズは出来る限りこのアルバムで使いました。結果実質7トラックほどの疑似トラックを使い制作されたのです。聞いてる限りだともっとトラック数があるように感じます。それがこのアルバムの恐ろしいマジックなのです。
ちなみに我らが西の森TVや西の森ラジオで流れている「デューラー」という曲がありますが、あれはインストですが、20トラックほど使っています。使おうと思えば100くらいは余裕で使えます。
ビートルズの曲はぜひヘッドフォンで聞いてほしいのですが、音がとにかく異常に移動します。気付くと7時にいたギターが突然3時にいたり、など、本当に愉快に音が動きます。
これはピンポン録音や、モノラルを強引にステレオにした影響もあると思いますが、音の遊園地みたいでワクワクします。
何をどこまで意図して音を移動させているのかは、今ではもう明らかにできる人はいないでしょう…。サージョージマーティン亡き今は…。
現代文明の進化は本当に速いものです。
つまりコンセプトと録音
この二点がサージェントペパーの価値を歴史上で高めているというわけです。
これが世間一般の解釈ですね。
もちろんこれには僕も同意見です。コンセプト論も、頷ける話ではあります。
僕個人にとっては、このサージェントペパーはもう一つ傑作たるゆえんがあります。
それはこのアルバムがビートルズにとって転機になったことです。
このアルバムが67年。この3年後にはビートルズは解散します。
そしてこの後3年間で、ホワイトアルバム、イエローサブマリン、レットイットビー、アビーロードという名作を連発します。
このサージェントペパー以降、時代は本格的にサイケデリックに突入します。アメリカではヒッピーがラブアンドピースを謳い、ドラッグ文化が隆盛。
いわゆる60年代の狂った時代がまさにここです。
その引き金となったのもまたこのアルバムです。
ジョンレノンの「ルーシーインザスカイ」などはドラッグソングと呼ばれ、かつてのアイドルだったビートルズは、人気アイドルや人気ミュージシャンという枠を越え、その時代のカルチャーの代名詞になったのです。
さらに言うとこれを機にビートルズは崩壊していきます。ビートルズとは名ばかりのバンドで、実質ソロアーティストの寄せ集めになっていきます。
この後、バンドとして、上手くグルーヴしていた楽曲はもう数曲しかないと僕は思っています。誰もが知っている、ヘイジュード、レットイットビー、などはビートルズの曲ではなくポールマッカートニー個人の曲です。
仲も悪くなり、各々の曲を各々でレコーディングしたにも関わらず、ビートルズ名義で名曲が多数輩出されます。
ビートルズの真にすごいところは、この時期にも名曲を作ったことです。
僕の中ではこのサージェントペパーが最後のビートルズのアルバムなのです。
アルバムコンセプトや録音技術なんて正直どうでもいいんです。
ビートルズが四人できちんと作れた最後のアルバム、ただそのことだけで、僕には価値があります。
実はこの頃から、ジョンとポールの確執はありましたが、それが形になるのはもう少し先の話です。
雑な感想ではありますが、このアルバムは「なんか好き」なんです。曲が好きとかそういったものではなく、理屈ではない好きです。実際に好きな曲は4曲くらいですから。
これはきっとビートルズが心から好きな人だけに伝わる「なんか」だと思います。
はっきり言って、音楽的には「リボルバー」や「アビーロード」の方が上でしょう。
でもなんか好きなんです。
プリーズプリーズミーなどを聞いてから、これを聞くと全く良さが分からないでしょう。というより別バンドのアルバムにも聞こえるかもしれません。
それほどビートルズというバンドは時代によって変化していった
違うな。
ビートルズが変化したから時代も変化していったのでしょう。
2017年の来日公演ではポールがこのアルバムから色々チョイスしてくれて「ラブリーリタ」を生で聞けました。
サージェントペパーではあまり好きじゃなかったけど、生で聞いたら好きになりました笑。
サージェントペパーズロンリーハーツクラブバンド
名作ではなくともやはり傑作なのです。